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『地道な努力に向けられたエンゼルの微笑み』


【2009年 函館スプリントステークス】

 1986年のデビュー以来、JRA通算1031勝(5月終了時)をマークしている熊沢重文騎手。デビュー3年目のオークス(コスモドリーム)では、初の重賞勝ちをG1の大舞台で飾り、91年にはダイユウサクで有馬記念に優勝するなど、早くから鮮烈な印象を残した。ジャンプレースにも積極的に騎乗し、現役最多の238勝に到達。12年の中山大障害(マーベラスカイザー)を勝利し、平地に加えて障害でもG1の勲章を手にした。両分野で二桁の重賞勝利(計31勝)を収めているのは、日本競馬史上で熊沢騎手だけである。
「激しい競争のなかにいて、マジで生き残りに必死だからね。目先のことに夢中になっていたら、もう騎手生活も34年目。ミキオ(松永幹夫元騎手)も調教師になり、同期で現役なのはノリ(横山典弘騎手)だけ。それでも、引き際なんて考えたこともないなぁ。一日でも長くジョッキーでいたい。そのためには自分らしく、泥臭くやっていくしかないでしょ」
 と、鉄人は微笑む。ゴールまであきらめずに追う姿勢はまったく変わっていない。
「05年の阪神ジュベナイルF(テイエムプリキュア)以来、しばらくタイトルから遠ざかっていたから、あの馬には感謝の気持ちでいっぱい。もっとがんばらなきゃって、意欲がわいてきた」
 こう振り返るのが、09年の函館スプリントSを制したグランプリエンゼルのこと。
「無理なく理想的なポジションが取れ、あとはスパートのタイミングを待つのみ。時計勝負に不安もあったけど、回転の速いフットワークは深い洋芝に合うと思っていたんだ。会心のレースができたね」
 芝・ダートを問わずに走り、海外でも香港Cを制したアグネスデジタルの産駒。母アンダンテ(その父サンデーサイレンス、ダート1200mで2勝)は、桜花賞(8着)にも駒を進めた快速タイプである。同馬の半姉に5勝したグランプリオーロラがいて、熊沢騎手の手綱で2勝を挙げていた。
 3戦目の札幌(芝1200m)で初勝利したものの、サフラン賞(12着)、寒桜賞(9着)と足踏みしたグランプリエンゼル。熊沢ジョッキーをパートナーに迎えたことをきっかけに、一変した走りを見せる。阪神の500万下(ダート1200m)を好位から差し切り。11番人気の低評価を覆し、橘Sもあっさり連勝する。芝の重馬場でもスピードは衰えなかった。
 心身の充実には身を見張るものがあった。NHKマイルCに臨むと、堂々の3着に食い下がる。この一戦では内田博幸騎手に手綱を託した陣営だったが、躍進の原動力となったファイターをことを忘れてはいなかった。函館スプリントSでの騎乗を依頼する。
「3歳牝馬の負担重量は51キロ。普段の体重から5キロ以上も減量する必要があったけど、準備期間はたっぷりあったからね。1か月前より、少しずつ落としていったよ。久々に訪れたビッグチャンス。辛いなんて言ってはいられないもの」
 馬にも熱意は伝わっていた。抜群の手応えで直線に向くと、小柄な馬体を弾ませて鮮やかに抜け出す。1馬身半差の快勝だった。
 続くキーンランドCも3着に健闘。しかし、スプリンターズSは不利を受け、13着に沈む。一気に階段を駆け上った反動も大きく、なかなか本来の輝きを取り戻せなかった。
 4歳秋のオパールSが最後の勝利。翌年のヴィクトリアマイル(4着)、京阪杯(2着)、6歳時のオーシャンS(2着)など、たびたび見せ場をつくりながら、2つ目の勲章は手にできなかった。カペラS(12着)を走り終え、繁殖入りが決まった。
 いまのところ産駒の勝利は、現3歳のモズレジーナ(父ロードカナロア)による1勝のみであっても、きっと新たなドラマが展開していくに違いない。母の域に達するスターの登場を楽しみに待っている。
 


第16回函館スプリントS(GⅢ)
1着グランプリエンゼル 牝3 51 熊沢重文  矢作芳人
2着タニノマティーニ  牡9 57 秋山真一郎 須貝彦三
3着ブラックバースピン 牡6 56 津村明秀  手塚貴久

 単勝  410円
 枠連 1,340円
 馬連 3,700円
 馬単 3,110円

3連複  56,950円
3連単  247,900円




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